大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和53年(オ)1299号 判決 1981年5月11日

上告人

三箇山茂郎

右訴訟代理人

植垣幸雄

外二名

被上告人

前田製菓株式会社

右代表者

前田敬三

右訴訟代理人

木村保男

外六名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人植垣幸雄、同比嘉廉丈、同久保慶治の上告理由第一点について

株式会社の取締役に対する退職慰労金は、その在職中における職務執行の対価として支給されるものである限り、商法二六九条にいう報酬に含まれるものと解すべきところ(最高裁昭和三八年(オ)第一二〇号同三九年一二月一一日第二小法廷判決・民集一八巻一〇号二一四三頁参照)、上告人が被上告人から退任取締役として支給を受ける退職慰労金は、仮に、被上告人が所論のような実体を有する同族会社であり、所論のような内容を有する本件退職慰労金支給規定によつて支給される場合であつても、同条にいう報酬として定款又は株主総会の決議によつてその金額を定めなければならないものと解するのが相当である。これと同趣旨の原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に基づいて原判決の不当をいうものにすぎず、採用することができない。

同第二ないし第四点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(栗本一夫 木下忠良 塚本重頼 鹽野宜慶 宮﨑梧一)

上告代理人植垣幸雄、同比嘉廉丈、同久保慶治の上告理由

第一点 原判決は、商法第二六九条の解釈及び適用を誤る違法がある。

一、原判決は「退職取締役の退職慰労金は、商法第二六九条の立法趣旨、すなわち、取締役等会社役員が取締役の報酬額を株主の利益を害する不相当な高額に定め支給するのを防止することにあるとの趣旨に鑑み、右法条所定の報酬に含まれ、しかも、それは右法条の右立法趣旨から考えて、右退職慰労金が取締役在職中の職務執行の対価としての性質のみを有する場合であると、取締役在職中の特別功労に対する支給としての性質を含んでいる場合にとに(「とに」の誤り。)よつて区別されるものではない、と解するのが相当である。」旨判示した。

ところで、取締役と会社間の法律関係は、いわゆる委任契約であり、しかも、有償の委任契約であるから、取締役は当然にその業務執行の対価を会社に対し請求し得るものである。

しかしながら取締役会等において勝手に右対価を決定し得るとすればお手盛の危険があり、会社ひいては株主に不利益を与える虞があるところから、商法は二六九条の規定を設けてその危険を防止し、会社あるいは株主の利益を保護しているものと解すべきである。

二、本件の場合、退職慰労金支給規程が存し、これに基づいて支給される退職慰労金が同条の「報酬」に該当するか否かにつき検討するに、原判決はその点の判断を誤つているというべきである。

即ち、右のような退職慰労金は業務執行の対価として報酬の後払いであり、報酬について株主総会での定めがあれば、これを基礎として退職取締役の任期をかけ合せれば自動的に額は決定するものであり、何らお手盛の危険が生じないものであるから、あらためて同条の決議等は要しないものである。

したがつて、右のような退職慰労金は同条の「報酬」に該当しないものであり、この点で原判決は、法令の解釈を誤つている。

三、仮に、原判決が法令の解釈を誤つていないとしても、その適用を誤っている。

本件退職慰労金支給規程では、その支給対象を役員と従業員とを区別せず一体化しており、在職年数に差異を設けて支給されることとなつており、役員に対し支給される退職慰労金と一般従業員に対し支給される退職金とは何ら異ならない。

したがって、お手盛の危険はさらさら存しないものであるから、右法同条の適用の余地は存しないはずである。

仮りに百歩を譲り、原則として右法条の適用があるとしても、被上告人会社のごとく、株主総会も殆んど開催されず、株式譲渡も制限され、役員も同族のみで構成されている会社については、右法条の適用がない。けだし、右法条の趣旨はお手盛を防止し、会社ひいては株主の利益を保護することにあるところ、会社の運営や機関構成が右の如き実体を持つ会社においては役員報酬のお手盛即株主としての自らの不利益となる故役員報酬についてのお手盛の虞がないからである。さらに、かように解しなければいわゆるワンマン経営の会社については代表取締役等一部の恣意によつて勝手にその支給が決められる危険がある(現に、被上告人会社においては、退職役員についていつもトラブルが発生している。)

右に指摘するとおり原判決は法律の解釈適用を誤る違法があり破棄を免れ得ない。

第二点 <以下、省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例